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だつたんそうしよう!

  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者たちが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

新潟大や長岡技術科学大など理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(第1、3木曜日夕に配信)

リレーコラムVOL.2

三条市立大学 工学部教授
片桐 裕則かたぎり ひろのり

1955年、新潟県出身。新潟大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。前職の長岡工業高等専門学校にて新型太陽電池の研究開発に従事し、2014年浜川賞、2017年文部科学大臣表彰科学技術賞、2017年新潟日報文化賞を受賞。2021年4月、三条市立大学工学部教授。現在に至る。

エッ? 雪国新潟で太陽電池??

開学4年目を迎えたばかりの若い三条市立大学で、工学部教授を務めております片桐です。生まれも育ちも新潟で、長期間この地を離れたことのない根っからの新潟県民です。新潟大学で修士課程を修了後、県立巻工業高校、長岡高専にて通算40年の教職生活を送りました。長岡高専で4年目の1985年、10ヶ月間だけ新潟を離れ、東京工業大学で文部省内地研究員として過ごしました。その際に、本コラムのテーマである脱炭素社会実現に向けた「太陽電池研究」に巡り会いました。

ところで、昨年朱鷺メッセにおいて、G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されたことは記憶に新しいところですね。2003年5月1日から5日間、この朱鷺メッセの開業に合わせた一般市民向けオープンイベントとして、「ゆめテク新潟’03-暮しを拓く『夢の技術』展」をメインに、「シンポジウム・セミナー」「ロボカップジャパンオープン2003新潟」が開催されたことを覚えていらっしゃいますか?実は、本コラムのタイトル「エッ? 雪国新潟で太陽電池??」は、この「シンポジウム・セミナー」で、私が用いた発表スライドのキャッチ・コピーなのです。

専門的なお話を一般の方々に向けて発表するには、研究成果の分かりやすい表現と食いつき易い具体的なデータの紹介が必要です。このセミナーでは、①長岡高専で実施していた新型薄膜太陽電池の研究開発状況と、②自宅に設置した4kWの太陽光発電システムの紹介を行いました。実は①の内容は、本イベントの2週間後に大阪で開催される太陽電池国際会議で行う招待講演の内容を易しく(?)解説したものでした。私としてはこの研究成果をアピールしたくてしょうがなかったのですが、聴衆の方々の興味を引いたのは圧倒的に②の発電システム設置費用と年間の電力料金収支に関するお話の方でした。そりゃそうですよね。誰しも霞を食べて生きて行けるわけではないし、お金に関わることにはみなさん敏感ですので当たり前のことだと思います。しかし、当時すでに石油・石炭などの化石燃料消費によるCO2の発生が、地球温暖化を加速させているとの認識が一般の方々にも広がり始めておりました。そのせいもあって、「化石燃料の大量消費を控え、みなさんご自宅の屋根に太陽電池をのせて、緑溢れる地球環境を孫子の代にまで残しませんか?」とセミナーを締めくくった時には、温かな賛同の拍手を頂戴したことをよく覚えております。脱炭素社会の実現は、すでに20年以上前から、研究者だけのテーマではなく全ての皆さんと共に目指すべき目標であったわけです。

現在は、三条市立大学で第1期生である4名の学生と共に、酸化物薄膜の高機能化に関する研究を行っています。前職では、硫化物を用いた薄膜太陽電池の研究開発を行ってきましたが、こちらでは酸化物に挑戦しています。最終的な太陽電池デバイスまで構築できる確証はありません。周辺の要素技術の開発だけで時間切れとなるかもしれません。写真1に、25mm×25mm×1mmのガラス基板上に作製したTi/TiO2積層薄膜の、白色LED照明下での発色の様子を示します。右に行くに従ってTiO2が厚くなっており、光の干渉色がTiO2の厚みに対応して変化するという物理現象を実際に確認することができました。写真2は、学生さんたちとの一コマです。重要なことは、フレッシュな学生諸君に、実際のものづくりを通した失敗体験・成功体験を数多く積んでもらうことだと考えています。

写真1 ガラス基板上に作製したTi/TiO2積層膜
写真2 研究室で学生との写真