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  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者たちが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

新潟大や長岡技術科学大など理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(第1、3木曜日夕に配信)

リレーコラムVOL.9

三条市立大学 工学部教授
今泉 充いまいずみ みつる

1963年、愛知県出身。名古屋工業大学工学部卒業。99年、豊田工業大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。一般企業にて化合物半導体光デバイスの研究開発に従事した後、学位取得を経て、99年、宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構:JAXA)に採用。宇宙用太陽電池の研究開発に従事。2023年4月より現職。

宇宙用太陽電池の応用で広がる世界

三条市立大学の今泉です。大学学部を卒業後、一般企業にて光デバイスの研究開発に携わっていましたが、環境問題が切実なものになるにつれ太陽電池の本格的な研究がどうしてもやりたくなり、会社を辞めて大学院に入り太陽電池の研究を始めたのがかれこれ25年前。以来、ずっと太陽電池に関わった仕事を続けています。JAXAでは(当たり前ですが)宇宙用の新型太陽電池開発を行っていました。宇宙用太陽電池は一義的には地球(地上)環境とは関係ないのですが、JAXA人生最後にシャープ(株)さんをパートナーとして開発した薄い・軽い・柔らかい・高効率を兼ね備えた宇宙用太陽電池(写真)は、いま電動化されつつある自動車や航空機など、移動体用の発電装置として応用研究が進められています。ゆえに、成果が地球環境・カーボンニュートラルに寄与できそうです。余談ですがこの太陽電池、欧米も必死になって開発していて世界を相手にした競争だったのですが、彼らの10分の1以下の予算と人員でかつ10年弱という短期間で製品化を達成しました。一方彼らは20年以上かけてまだ製品化に至っていません。私の自慢です。

JAXAを60歳到達により解雇になり、新潟は三条市立大学に参りました。大学では、太陽電池を作製するような予算もスタッフも装置を置く場所もありませんので、新型太陽電池の研究ではなく、宇宙用太陽電池を応用した全く別の研究を行っています。それは、太陽電池デバイスの放射線検知器としての応用です。

カーボンニュートラルの達成目標の下、様々な再生可能エネルギー(源)が求められ、また研究開発が行われています。しかし、賛否は置いておいて、少なくとも当面は原子力発電もそれらに含めてある程度頼らなければならないのが実情だと思います。しかし、福島第一原発の事故でその危険性・脆弱性がつまびらかになり、いまはその廃炉という極めて困難な作業や、原子炉の格段の安全性向上が課題となっています。そのどちらにおいても必要なのが、非常に高いレベルの放射線をモニタリング計測しなければならないこと。廃炉では燃料デブリに関する情報として、原子炉運転では核反応の暴走を察知するために必要です。しかし、一般的な放射線検知器ではそのような高線量の放射線は測ることができないし、大きすぎて設置が困難です。

そこで目を付けたのが太陽電池!太陽電池は光のエネルギーを吸収して電気エネルギーを出力するデバイスですが、実は放射線のエネルギーでも同じメカニズムで発電します。この出力を信号とすれば、強い放射線も測ることができます。ただし、光の場合と違うのは、放射線はエネルギーが大きすぎて太陽電池を壊すこと。これを放射線損傷と言いますが、この損傷で太陽電池の出力は低下してしまいます(「放射線劣化」と言います)。なので、“普通”の太陽電池は使えません。しかし、宇宙用太陽電池はこの放射線に耐えることができます。それは,宇宙空間には放射線が飛び交っているため、放射線耐性を有する設計・構造となっているからです。そうです、前職の仕事内容であり、私の唯一の得意分野です。

とはいえ、放射線劣化をゼロにすることは極めて難しく、しかも原子炉の放射線は宇宙空間より桁違いに強いので、さらなる工夫が必要です。いまはこの宇宙用太陽電池の放射線検知器応用に向けて、耐性強化や劣化による出力信号低下の補正方法などについて研究を行っているところです。より安全性の高い原子力発電の実現を目標に、個人的に巡る思いはとりあえず脇に置き、この分野を専門とする一研究者・技術者としてお役に立てるよう頑張ります。なお、最新の研究につき、写真やデータなどをお示しできないこと、ご容赦ください。

薄く、軽く、柔らかく、しかも高効率=高出力の新型太陽電池 (©JAXA/SHARP)

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