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  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

県内の理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)

リレーコラムVOL.13

新潟大学自然科学系(工学部)教授(カーボンニュートラル融合技術研究センター副センター長・水分解分野代表)
八木 政行やぎ まさゆき

1968年、群馬県出身。埼玉大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。新潟大学教育学部助手、同准教授を経て、2009年4月から現職。

夢の新エネルギー「人工光合成」への挑戦

地球温暖化による気候変動や生態系の異変、化石燃料の枯渇などの地球規模での環境・エネルギー問題が深刻化しており、昨今では気温上昇や大雨・大雪による自然災害の頻発化など、気候変動の影響が顕在化してきています。地球温暖化は、石油や石炭などの化石燃料の使用による二酸化炭素濃度の増大が原因といわれています。我々の身の回りの物のほとんどは、化石燃料なしでは生産できないといっても過言ではありません。皆さんが毎日食べているお米や野菜も例外ではありません。米や野菜を作るには肥料が必要です。その肥料の多くは、肥料工場で化石燃料をたくさん使用して製造されています。稲刈りも農業用機械を使用し、石油がないと農業用機械は使えず、稲刈りは大変になります。化石燃料を使用する際には、必ず二酸化炭素を排出してしまいますので、化石燃料を使用しないで、現在の私たちの生活が無理なく営めるような新しい社会を築く必要があります。それが脱炭素社会です。脱炭素社会を実現するためには、主要なエネルギー源を化石燃料から、水素のように二酸化炭素を排出しないで使用できる燃料に代えていかなければなりません。

しかし、脱炭素社会を実現するのは、そう簡単ではありません。それは、水素を製造するコストが高いからです。工場で製品を製造するとき、なるべく低コストのエネルギーを使用した方が、製品が安くなり、消費者は嬉しいかぎりです。低コストで水素を製造することが、脱炭素社会実現の鍵になります。現在、低コストで水素を製造できるように、世界中の多くの研究者がたゆみない努力を続けています。

大学で講義をしていると、最近の学生が環境問題に大変敏感なことに気づかされます。今の大学生は、生まれた時から環境問題が取り沙汰され、立派な環境教育の中で育ってきたからだと思います。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん(2003年生まれ)のような環境活動家が現れたのも驚くことではないと思います。次世代の皆さんは、我々大人の世代とは違った、経済性よりも重く環境問題を考えられる世代です。皆さんたちの世代で、脱炭素社会の実現が加速するものと大変期待しています。頑張ってください。私の研究グループでは、脱炭素社会の実現に貢献するために、太陽光エネルギーにより化学燃料や化学製品を製造する、人工光合成に関する研究に取り組んでいます(図1参照)。以下に当研究室の最近の研究成果をまとめておきました。興味のある方は、是非ご覧ください。

図1 人工光合成の概念イラスト

研究成果の紹介

世界最小のエネルギーで水を酸素と水素に電解することに成功

ニッケルの硫化物と窒化炭素から成る複合型電極の開発に成功しました(図2)。これを酸素発生触媒電極として用いて、アルカリ水溶液中で水電解を行った結果、32mVの超低過電圧で水が酸素へ分解されることを実証しました。これまで報告されている高効率な酸素発生触媒電極と比較しても、これは格段に低い値であり、大きなインパクトを与える研究成果となりました。

図2 複合型酸素発生触媒電極を用いた水分解の模式図

太陽光水分解によるグリーン水素製造-世界最高水準の太陽光-水素変換効率を達成-

混合金属酸化物から成る酸素発生触媒電極と白金水素発生触媒電極を組み合わせた水電解セルを作製し、低い過電圧(240mV)で水電解を達成することに成功しました。一方、ガリウムヒ素(GaAs)太陽電池は、優れた安定性を示すことが知られていますが、その起電力が水分解には不充分であり課題がありました。しかし、本水電解セルは低過電圧で作動するため、2接合型GaAs太陽電池の起電力でも水を分解できることがわかりました。図3に示すように、2接合型GaAs/GaAs太陽電池と水電解セルを用いて、太陽光水分解を行ったところ、世界最高水準の太陽光-水素変換効率(13.9%)で1か月間に渡り、安定的に水から水素を製造できることを実証しました。

図3 太陽光水分解によるグリーン水素製造システムの模式図

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