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  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)

リレーコラムVOL.26

工学部 学部長 / 教授|博士(工学)
和田 浩志わだ ひろし

民間企業(AGC株式会社)にて、主に自動車・建材向けの新規高分子商品 (特にポリウレタン樹脂) 原料の合成、生産技術、製品の成形加工方法、機能発現メカニズムの解明、などの研究開発を手掛けてきた。2022年より三条市立大学に教授として着任し、2025年4月より現職。

地域資源を活用した新事業の創出にチャレンジ!

三条市立大学の和田です。大学に赴任する前は、AGC株式会社にて、主に自動車および建材向けの新規高分子材料(特にポリウレタン樹脂)の原料合成、生産技術、製品の成形加工法、機能発現メカニズムの解明など、化学分野における研究開発に従事しておりました。

余談ではありますが、私が入社した当時は「旭硝子株式会社」という社名であったため、「ガラスの会社なのに、なぜ樹脂の研究開発をしているのですか?」と尋ねられることがよくありました。実際には、旭硝子株式会社(現AGC株式会社)は化学品など非ガラス分野の事業が売上比率の約40%を占めるコングロマリット(複合企業体)であり、現在では「素材の会社 AGC」として、より実態に合致した名称に変わっています。

私は2022年に三条市立大学に着任し、現在は有機化学および高分子化学の授業を担当しています。大学での研究では、グローバルな社会課題の解決に資するテーマに取り組みたいと考え、「カーボンニュートラル」および「サーキュラーエコノミー」の両立にチャレンジしています。これは、自動車などから排出されるCO2と、植物が吸収するCO2の量を均衡させることで温室効果ガスを削減し、同時に廃棄物削減や資源の枯渇防止にも貢献することを目指すものです。

図.1 カーボンニュートラルと循環型経済

新潟県は日本一のコメどころであり、毎年およそ80万トンの「稲わら」や「もみ殻」などの農作物非食用部が発生しています。これらのバイオマス資源を有効に活用することが地域貢献にもつながると考え、現在は「バイオマスコンポジット(バイオマスと樹脂との複合材料)」の研究開発に取り組んでおります。バイオマスコンポジットの一例としては、木粉などの木質バイオマスを樹脂で固めた「ウッドプラスチック(WPC)」が挙げられます。WPCは、天然木のような外観を持ちつつ、経年劣化によるささくれなどの問題を解消できることから、ウッドデッキなどの外装材として利用が広がり、近年その販売量も増加しています。木粉の代替として、「稲わら」や「もみ殻」といったバイオマスを活用することも可能です。これらを採用する利点は、国内自給率が高く、毎年安定して産出されるため、原料の供給が非常に安定している点にあります。私たちは、もみ殻を微細化し、大幅な減容化(もみ殻の体積を大幅に減らす)に成功しました。また、樹脂中に均一に分散させることで、硬くて弾力性のある新しいコンポジットの開発にも成功しています。

新潟県の燕三条地域は、工業製品を中心としたものづくりが盛んな地域です。この地域における非可食バイオマスの発生という課題に対し、輸送の負荷を抑えつつ、地域内で資源を有効活用する方法が模索されてきました。その解決の一助として、私たちは大学が持つ化学の知識と技術を活かした研究を通じて地域課題の解決策を見出し、得られた成果を地元企業と連携して社会実装することを目指しています。このような研究開発は、SDGsの目標7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)に合致するのみならず、資源の効率的な利用、資源に依存しない製品の創出、地域の活性化、さらには間伐材の有効利用による森林管理の推進など、さまざまな持続可能な目標の達成に貢献するものです。

図.2 (写真)左から「もみ殻」「粉砕後のもみ殻」「バイオマスコンポジット」
図.3 研究室風景

なお、私の研究室には昨年度より初めて4名の4年生が配属され、バイオマスコンポジットの研究を大きく前進させてくれました。今年3月には、全員が無事に社会へと巣立っていきました。あらためて、心より感謝申し上げます。

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