- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.32
新潟大学自然科学系(工学部)准教授
城内 紗千子
1984年、兵庫県出身。奈良先端科学技術大学院大学自然科学研究科修了。博士(工学)。
2019年11月より現職。

誰もが作って使える太陽電池を!―広がる有機薄膜太陽電池の世界―
近年、太陽電池の世界では新星「ペロブスカイト太陽電池」が登場し、軽量・高効率な発電特性をもつことから注目を集めています。
でも、ちょっと待って!実は、昔からある「有機薄膜太陽電池」も、ペロブスカイト太陽電池に負けない魅力がたくさんあります。
私たちの研究室では、有機材料をベースにした環境にやさしく持続可能なエネルギー変換技術の開発に取り組んでいます。

ペロブスカイト太陽電池(写真:2025年日本国際博覧会協会)
太陽電池にも“環境負荷”の問題がある
“太陽電池”と聞くと、多くの人が「地球にやさしい再生可能エネルギー」というイメージを持たれると思います。たしかに、発電時にCO2を排出しない点では非常に優れた技術です。しかし、その太陽電池の製造過程や廃棄過程では、あまり知られていない課題もあります。たとえば、現在主流のシリコン太陽電池では、原料となる高純度シリコンの製造のために1,000℃以上の熱処理を必要とし、有機溶媒も大量に使われています。また、使用後の廃棄処理やリサイクル問題も喫緊の課題となっています。本当の意味での「再生可能なエネルギー社会」を目指すために、使用後のものをまた資源として生かす循環型の太陽電池への転換が求められています。そこで本研究室では、「廃棄物から新しい太陽電池をつくる」というユニークな有機薄膜太陽電池の作製に取り組んでいます。
どんなものからでも生まれる太陽電池材料
私たちの身の回りには、再利用可能な炭素源、有機分子、金属などで溢れています。たとえば、木の細胞壁に多く含まれる成分リグニンです。製紙工場ではパルプ紙を作るときに大量に出る副産物で、本来なら捨てられてしまう「未利用バイオマス」の一つです。このリグニンはフェノール構造を多く持っており、紫外~可視領域の光を吸収する性質を持つため光電変換に利用できる可能性があります。つまり、光をエネルギーに変える「太陽電池の材料」として使えるということです。他にも、茶かすや柿渋、赤ワインの搾りかす、コーヒーの出がらしなど、私たちが普段廃棄している食品廃棄物の中にも、太陽電池の材料になりうる”お宝”がたくさん隠れています。最近、研究室では、こうした自然由来の資源を使って、環境にやさしい「環境配慮型有機薄膜太陽電池」の開発をはじめました。石油由来の高価な高分子材料を使わずに、廃棄物や未利用資源から電気を生み出す技術を目指しています。

簡単につくって安全に使える太陽電池を
将来、太陽光発電の設備が整っていない地域や国でも、身近な廃棄物を使って、自分の手で簡単に太陽電池を作れるようになることを目指しています。現在取り組んでいる有機薄膜太陽電池はまだ発展途上の技術ですが、分子の構造を自由にデザインできるという特徴があります。
そのため、機能性の高い分子材料を自在に開発することができる可能性を秘めており、私たちの暮らしを大きく変える力をもっています。
さらに、太陽光発電は環境問題やエネルギー問題の解決に直接つながる重要な研究分野でもあります。
「自分のアイデアを社会に役立てたい」「持続可能な未来のための技術を生み出したい」そんな思いをもつ学生の皆さんといっしょに、30年後50年後の未来に向けて、少しでも社会に貢献できる技術の研究開発に取り組んでいます。
