- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(隔週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.41
三条市立大学 教授
川﨑 一正
新潟大学にて、動力伝動装置の高精度・高性能化に関する研究、難削材料の切削加工に関する研究、産学連携マネジメントに従事、この間、1998年:博士(工学)の学位授与、2000~2001年:イリノイ大学シカゴ校客員研究員、2021年4月~現職

脱炭素社会の実現に寄与するウォータージェット加工機
脱炭素社会の実現に向けて、自動車産業では世界的にEV(電気自動車)へのシフトが大きな流れになってきています。EVの航続距離の延長には車体の軽量化が不可欠で、鉄鋼より軽いアルミニウム部品の使用が増大するとともに、軽さと強さを兼ね備えたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の適用も模索されています。さらに部品点数削減のために部品の多機能化・複雑化も進んできています。
自動車部品など様々な部品は、工作機械を用いて主に素材を削り出すことにより作り出されていますが、工作機械産業はニッチな産業で、一般的にはあまり知られていません。しかし、ほとんどの機械や部品は、工作機械によって作り出されることから、「マザーマシン(機械をつくるための機械)」とも呼ばれ、その用途は、自動車などの乗り物をはじめ、医療機器、スマートフォンなどのIT機器まで、あらゆるものづくりの基盤となって、私たちの生活を支えています。
素材を削り出す過程では、熱の発生が避けられませんが、熱によって素材の変形、変色や熱影響層が発生したりします。そのため、熱は脱炭素社会を実現する上での障害となっています。
熱による影響がほとんどない工作機械として、ウォータージェット加工機があります。ウォータージェット加工は、超高圧の水流を利用して材料を切断・加工する技術です。一般的に約400MPa(水道水の約2700倍)もの超高圧水を、音速の約3倍という驚異的な速度で小径ノズルから噴射することで、材料を切断します(図1)。ウォータージェット加工の物理的原理は非常にシンプルです。水に超高圧をかけてノズルから噴射すると、狭いノズルを通過する際に水流が加速され、その運動エネルギーによって材料が切断されます。この高速水流に研磨剤を混入させれば、研磨剤の粒子が材料表面を削り取り、より硬い金属などの材料も切断可能となります(図2)。
ウォータージェット加工には、有害ガスの発生がない、切断時の金属粉塵が最小限に抑えられる、冷却油・切削油を使用しない使用後の水は、研磨剤をろ過すれば再利用が可能、といった利点も有しています。他に大きな強みとして、幅広い材料に対応できる汎用性があります。難削材と言われてきた金属材料からガラスなどの脆い材料まで切断・加工が可能となります。
現代のウォータージェット加工機は他の工作機械と同様に5軸加工機能を搭載した形のものも登場しており、立体的な切断や傾斜切断など、より複雑な加工にも対応できるようになっています。例えば、より細い水流で微細加工を実現する、マイクロウォータージェット、AIやIoT技術の導入による最適加工条件の自動設定なども可能になってきています。
人類、動物、植物すべてが水とともに生き、発展してきています。子供の頃、近くの海で泳いだり、海中の砂に潜っているハマグリを取って遊んだりしたことを思い起こし、改めて、水の惑星の中で生きてきたんだと実感しています。ウォータージェット加工機は環境にやさしい工作機械であり、破壊された環境も回復していくことを切望しています。

