- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(隔週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.44
株式会社ベジ・アビオ 取締役
加藤 和彦
新潟市出身。現在42歳。民間の都内IT企業に勤務した後、Uターンして実家の農業に就農。全国各地を訪問し、園芸作物に関する知見を広げる中で、バイオスティミュラント資材(BS資材)と出会い、独学で実証・研究を重ねる。2023年より現職。

温室効果ガス削減につながる節水型乾田直播 NSGグループが挑む新たな稲作
新潟市のNSGグループ農業法人ベジ・アビオが、温室効果ガスを大幅に削減できる可能性が高い革新的な稲作「節水型乾田直播(かんでんちょくは)」に挑戦している。水田から発生するメタンの抑制が期待でき、省力化による経済的メリットも大きい。米どころ新潟から始まる「農業の脱炭素革命」が、担い手不足と気候変動という2つの課題を同時に解決する可能性を秘めている。
水を張った田んぼでは酸素が少ない嫌気状態となり、微生物がメタンを生成する。メタンは二酸化炭素の約25倍の温室効果を持ち、農林水産省によると国内農業分野の温室効果ガス排出量の約4割を水田が占める。
ベジ・アビオが2025年春から取り組む節水型乾田直播は、乾いた田んぼに直接種をまき、水を張らずに最小限の給水で稲を育てる農法だ。今年は約57アールの田んぼで品種「にじのきらめき」を栽培し、収穫まで給水はわずか5回。水を張る回数と期間を大幅に削減することで、メタン発生の大幅な抑制が見込まれている。

温室効果ガスの排出は国際基準により「スコープ1(直接排出)」「スコープ2(エネルギー起源の間接排出)」「スコープ3(その他の間接排出)」に分類される。農業における水田からのメタン発生はスコープ1に該当し、事業者が直接管理・削減できる排出源だ。
同社取締役の加藤和彦氏は「節水型乾田直播による温室効果ガス削減は、農業生産者自身のスコープ1削減に直結する。さらに、当社が生産した米を購入する食品メーカーや外食産業、学校給食などにとっては、スコープ3(カテゴリー1:購入した製品・サービス)の削減につながる」と説明する。
近年、企業には自社の直接排出だけでなく、サプライチェーン全体の温室効果ガス削減が求められている。「節水米を選ぶことで、購入企業は自社のスコープ3排出量を削減でき、ESG経営やカーボンニュートラル目標の達成に貢献できる可能性がある」と加藤氏は強調する。
温室効果ガス削減に加え、省力化による経済的メリットも大きい。育苗、代かき、田植えといった工程が不要となり、一人当たりが管理できる面積は従来の倍になる。「高齢化と担い手不足が深刻化する中、節水型なら兼業農家でも少ない労力で管理でき、耕作放棄地の拡大防止にもつながる」と加藤氏。
このプロジェクトには、JA新潟市、新潟クボタ、BASFジャパン、新潟食料農業大学なども参画。産学官連携で技術の確立と普及を目指している。初年度は雑草管理などの課題もあったが、10月上旬には収穫を迎えた。
加藤氏は「学校給食や企業の社員食堂に節水米を導入し、どれだけ温室効果ガス削減につながったかを数字で示したい。企業にとっても、調達段階でのスコープ3削減実績として報告できる」と語る。
来年度は作付面積の拡大を計画。「節水米は単なる農法ではなく、サプライチェーン全体の脱炭素を推進する社会インフラになり得る。新潟から全国へこの技術を広げ、日本が誇る米作りを持続可能で環境にやさしい形に変えていくことが使命」と加藤氏は力を込める。
米どころ新潟から始まる脱炭素への挑戦が、日本の農業の未来を照らしている。
