- 紙面シリーズ
いつも食べてるおコメで
脱炭素!?
日本一のコメどころで知られる新潟県。基幹産業である農業と脱炭素を結びつけると、持続可能な取り組みにつながる可能性が見えてきます。2050年の脱炭素社会実現を掲げる新潟県でも、農業分野では水田や畑地からの温室効果ガス発生抑制などを重点施策の一つに掲げています。未来のチカラにいがた脱炭素プロジェクト8月特集は「食」に焦点を当て、脱炭素につながる取り組みについて考えます。
田んぼで温室効果ガスを減らす!
土の中の炭素を増やす
県農業総合研究所(長岡市)では、もみ殻を炭にした「くん炭」を田んぼの中の土に混ぜ、炭素を土の中に貯留することにより、人間活動による二酸化炭素(CO2)の増加と相殺する研究に取り組んでいます。
実験では、広さ10アールの田んぼから約540kgのおコメを収穫し、同時に出たもみ殻約140kgを「くん炭」にして田んぼの土の中に混ぜました。この「くん炭」の炭素量を大気中のCO2に換算すると、44kg分のCO2を土の中に貯留できることが分かりました。くん炭を土に混ぜた田んぼでおコメを栽培したところ、収穫量や品質に違いは見られなかったそうです。
同研究所基盤研究部の専門研究員で、農学博士(土壌学)の本間利光さんは「果樹王国の山梨県では果樹の剪定した木を炭にして、土壌に混ぜています。コメ王国の新潟ではもみ殻を有効利用することで、脱炭素につながる可能性があると考えています」と話しています。
このような取り組みは、世界では「4(フォー)パーミル・イニシアチブ」と呼ばれています。世界の土の中の炭素量を今よりも年間0.4%増やすことができれば、人間の経済活動などで増加する大気中のCO2を実質ゼロにできるというものです。(※パーミルはパーセントの10分の1)
新潟県には広大な田んぼが広がっています。その田んぼの中の炭素を増やすことは温暖化防止対策として大いに期待されます。
ただ、実現に向けた課題もあります。農家の高齢化や担い手不足が深刻な中で、くん炭を田んぼに混ぜる作業は農家の負担になります。くん炭をたくさん作る場所や設備も必要です。そして消費者である県民が、フォーパーミルについて理解を深めることも大切です。
一方で、田んぼの土の中に炭素を入れる取り組みは、国が温室効果ガスの排出削減量を認証し、取引を可能にする制度「J-クレジット」に活用できる可能性があります。農家が田んぼに混ぜた炭素をクレジットとして販売できれば、収入源になるかもしれません。
メタンの発生を抑える
同研究所では、温室効果ガスの一つメタン削減の研究にも取り組んでいます。田んぼの土の中には、酸素が少なくなるとメタンを作る微生物が棲んでいます。水田に水を張ると土の中の酸素が少なくなりメタンが発生します。そのため、田んぼから一定期間、水を抜く「中干し」の期間を長くすることで、メタンの発生が抑えられると分かってきました。
こうした研究が進んで取り組みが実現していくと、新潟の農業に新しい価値を加えることができるかもしれません。
再生可能エネルギーで持続可能な農業に
食品製造業「エコ・ライス新潟」(長岡市)では、精米などの消費電力を再生可能エネルギーで賄おうと、同市の補助も活用して太陽光発電システムを導入しました。
同社の駐車場に、縦型太陽光発電パネルが並んでいます。縦型のため、雪が積もる冬場の発電も可能です。
太陽光発電の導入は、コメの輸出に力を入れている豊永有社長が、フランスに出張したことがきっかけでした。欧州では再生可能エネルギーがどんどん導入されており、「日本でも今後は欠かせない取り組みになる」と痛感したそうです。
太陽光発電は、今秋から精米などで使用する電力の一部に充てる予定で、豊永社長は「太陽光発電などを導入し、持続可能な農業につなげていきたい」と話しています。
コメ由来のバイオプラスチックで環境に優しく
コメ由来のバイオマスプラスチック製造販売「バイオマスレジンホールディングス」(HD、東京)は、精米時に出るくず米や古米を使ったプラスチック樹脂「ライスレジン®」を手がけています。
ライスレジンは、石油系樹脂にコメを最大70%配合するため、焼却時のCO2排出量を削減できます。
県内では南魚沼市や魚沼市の指定ごみ袋に使われています。2024年度には新潟市で市内産のコメを活用した指定ごみ袋が導入される予定です。
同HD子会社の「バイオマスレジンマーケティング」(新潟市中央区)の山田眞社長は「新潟の宝であるコメを使って環境負荷を減らし、生活者が環境について考えるきっかけをつくれたら」と思いを込めます。
また、上越市では別の企業が作ったコメ由来のごみ袋を使用するなど、コメ由来のプラスチックの活用が広がっています。