- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者たちが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
新潟大や長岡技術科学大など理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(第1、3木曜日夕に配信)
リレーコラムVOL.3
長岡技術科学大学 技学研究院機械系 教授
髙橋 勉
1961年、石川県出身、東京理科大学大学院理工学研究科博士課程機械工学専攻修了。工学博士。2011年4月、長岡技術科学大学大学院工学研究科教授。現在に至る。
脱炭素の最初の一歩はみんなの理解
2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な社会を作るための17のゴールであるSDGsには2018年より各ゴールに対して世界で1校の大学がそのゴールの達成に向けたハブ大学として国連より指名される。長岡技術科学大学は2018年からの第1期に続き、現在の第2期もゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のハブ大学に任命された。このため、大学全体としての取り組みだけではなく、各教員がそれぞれの専門分野においてゴール9の趣旨に沿った国際的な活動を行っている。私に関しては学術的な基礎研究に加えてSDGsに関するテーマとして廃プラスチックのマテリアルリサイクルプロセスの開発および自然エネルギー活用として波力発電と風力発電に関する新技術の開発を行っている。
風力発電は持続可能な社会における重要なエネルギー供給システムとして太陽光発電と並び期待される。新潟県では佐渡沖が洋上風力発電の適地となっており、導入に向けた検討がなされている。大規模な風力発電は基幹電力として重要である反面、騒音・振動、反射や影のちらつきによる光害、翼の氷結による飛散物、鳥類への被害などにより設置場所が限られてしまう。実際に大型の風車の近くに行くと、その迫力に圧倒されると同時に恐怖心を持つ方も多い。持続可能な社会を実現するためにはこのような大型発電施設に加えて都市部においても自然エネルギーの活用を進めていく必要がある。太陽光パネルについては一般住宅でも設置が進められているのに対し、住宅街や都市部において風車を見かけることはまれである。これらの地域では年間を通して強い風が吹くことはあまりないが、わずかな風であっても利用することで住宅や施設で使用する電力を補助することが期待されている。そのためにも恐怖感を与えない安全・安心な風力発電システムが求められている。
この課題を根本から解決するために従来とは全く異なる原理で回る新しい風車を発明した。飛行機の翼と同じ薄くて細い翼を用いる従来の風車に対し、この新型風車では翼は丸い棒である。ただの丸棒だけでは風が吹いても回らないが、その後ろにリング状の板を置くことで丸棒とリングの間にネックレス型のうずを形成し強い回転力を生み出すという原理である。日米欧豪で特許を取得し、社会実装に向けて準備を行っている。この原理による風車の最大の特徴は翼が発泡スチロールやペットボトルのような軽くて柔らかい素材で出来ていることと、回転数が従来の風車に比べて20分の1以下というゆっくり回る風車であることである。このため、回転による騒音や振動はほとんど発生せず、万が一、回転中に風車に触れてもケガをする危険が少ない。住宅地のような生活圏で使用できる初めての風車として期待されている。現在はビルの屋上に設置するローター直径が1~2mの装置とキャンプや災害時に使用できる携帯型の風車を開発している。携帯型では図1に示すデザイン性の高い装置に加えて、2Lのペットボトルを翼として利用するペットボトル風車(図2)も開発している。災害時には備蓄されているミネラルウォーターのボトルを8本~10本程度を翼として使うことで携帯電話の充電が行える。
開発している新型の風車は発電効率の点では従来の装置にまだ及ばない。しかし、安全・安心で人に優しいという特徴により、住環境に近いところで使える風車となることを目指している。映画「風の谷のナウシカ」のように身近に風車がいくつもある街を夢見る。小さな電力でも少しずつ集めれば持続可能な社会の実現に貢献することが出来るだろう。そのためには、怖くない風車の存在を広く知っていただき、これまで活用できていなかったエネルギーを利用する技術への理解を深めていただくことが重要と考える。効率の高い風車の開発と同時に風車の楽しさや安全性についての啓蒙活動に力を尽くしたい。