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  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

県内の理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)

リレーコラムVOL.12

長岡工業高等専門 物質工学科 准教授
熱海 良輔あつみ りょうすけ

1978年、北海道室蘭市出身。群馬大学大学院工学研究科環境創生工学領域 博士後期課程修了。博士(工学)。2016年4月 産業技術総合研究所 任期付研究員。2021年4月 長岡工業高等専門学校 物質工学科 助教。2024年より現職。

再生可能エネルギーを支える技術 ~アンサンブル予報~

「ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきは、テキサスで竜巻を引き起こすか?」

これは、気象学者のエドワード・ローレンツ(1917-2008)が、初期値に含まれる僅かな誤差が、その後の予測値に大きな影響を与える現象を寓意的に表現した言葉です。初期値に含まれる誤差が僅かなものだとしても、予測値に大きな影響を与えてしまい予測精度が下がってしまうような現象を、カオス(Chaos、ケイオス)といいます。

気象現象は、まさにこのカオス理論が当てはまる現象です。特に、初期値の変化によって予測値が「ばたつく」ような現象を「バタフライ効果」といいます。

気象予報はみなさんの生活になくてはならないものだと思います。明日の通学に傘や合羽が必要かどうか、運動会が決行できるのかどうか……など、「天気」はみなさんの生活にとって最も身近で、最も重要なカオス現象であるといえます。

再生可能エネルギーの分野においても、気象予報は重要となります。明日、何時間晴れるのか、雲量がどのくらいあるのか、暖かいのか寒いのか、といった様々な状況で太陽光発電パネルの発電量が変化します。また、風力タービン(風車)発電においても、風速はどの程度か、風向はどちらか、気圧や湿度はどの程度か、といった状況によって発電量が左右されます。実際の発電量が予想から大きく外れてしまうと、みなさんの家庭で停電が起きたり、電力会社が管理する系統電力の品質が低下したりと、大きな混乱が起きてしまいます。そのため、再生可能エネルギーの分野において、気象予報はとても重要な情報となります。

しかし、最初に述べたように、気象現象はカオスですので、今の状態(初期値)が分かったとしても、風向・風速・温度・湿度・気圧に含まれる僅かな測定誤差が、予報に大きな影響を与えてしまいます。それでは、現在の気象予報は、この問題をどのように解決しているのでしょうか? 重要なキーワードは「数値予報」と「アンサンブル予報」です。

数値予報

新聞、テレビ、ネットニュースなどみなさんの周りには情報源がたくさんあると思いますが、どの媒体(メディア)であっても、天気予報の欄を見かけると思います。テレビでは「気象予報士」が天気の解説をしているので、「気象予報士が(読んで字のごとく)気象を予報しているのかな?」と思うかも知れませんが、実情はやや異なります。

現在の天気予報は基本的に「数値予報」となります。数値予報とは、気象庁が計算機(スーパーコンピューター)を用いて地球大気や海洋、陸地の変化を数値シミュレーションによって予測し、予測データから気象状態を解釈して天気予報とすることです。

どの範囲を計算するのか?というと、いくつか種類があります。我が国周辺だけを計算するモデルを「局地モデル」とか「メソモデル」といい、地球全体を計算するモデルを「全球モデル」といいます。全球モデルは、以下の図のように、13km×13kmの格子に区切って、格子間の大気や熱の移動を計算します。格子の高さは地表に近づくほど細かく設定されており、地表から約55kmまでを128層に分割して計算しています。

計算をする際には、まず全ての格子に、気象観測等に基づいた風速・風向・気温・圧力・湿度のパラメータを入力し、その後は、高校や大学の物理で学ぶような簡単な物理法則に基づいて計算を開始します。

図 全球モデルの計算格子のイメージ
出典:気象庁ホームページより

アンサンブル予報

「まず全ての格子に、気象観測等に基づいた風速・風向・気温・圧力・湿度のパラメータを入力」すると記載しましたが、全ての格子の気象データを観測することはとても困難なことです。実際には、気象観測データによって補正した前の数値予報の結果を使用しますが、結局は予報値のため誤差が含まれてしまいます。

気象現象はカオス現象なので、このような誤差は予測値を大きく狂わせてしまう原因ですが、これを解決するのが「アンサンブル予報」です。

アンサンブル予報では、下の図に示すように、まず、気象観測による誤差と同じくらいの誤差をわざと与え、複数の初期値の組に対してそれぞれ数値シミュレーションを実行します。次にその結果の平均をとって(これをアンサンブル平均といいます)、予報値として発表するのがアンサンブル予報です。アンサンブル(ensemble)は「全体的」や「統一感」といった意味の言葉です。

現在の気象予報は基本的にアンサンブル予報に基づいています。アンサンブル予報の精度をより向上させるために、現在、全球モデルの地形データをより精緻なデータに改良する取り組みや、台風予測において重要な海水面温度データの整備が進んでいます。一方で、より精密な数値シミュレーションを実行するには、より高性能なスパコンが必要になります。こうした計算機の能力(計算資源)の確保も重要な課題となります。

図 アンサンブル予報の概念図(著者作成)

気象予報の精度が上がることで、再生可能エネルギー発電量の予測精度が向上し、安定して電力を供給することが可能になります。再生可能エネルギーの分野は、一見、こうした無関係に思える多数の技術によって成り立っています。みなさんも、気象予報に限らず、どのような技術が再生可能エネルギーに関連しているか調べてみて下さい。

参考文献

  • 『ブルーバックス 図解・天気予報入門』古川武彦、大木勇人(講談社、2021年)
  • 『アンサンブル予報』古川武彦、酒井重典(東京大学出版、2004年)
  • 『数値予報の基礎知識』二宮洸三(オーム社、2004年)
  • 『数値予報と現代気象学』新田尚、二宮洸三、山岸米二郎(東京大学出版、2009年)
  • 『一般気象学 第2版補訂版』小倉義光(東京大学出版、2016年)

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