- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.15
三条市立大学 工学部准教授
橋本 英樹
1970年、大阪府出身。大阪大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。2021年4月より現職。同年より大阪大学産業科学研究所招聘准教授。

熱から電気をつくるエネルギー変換材料の研究開発-未利用熱発電による温室効果ガス排出削減-
地球には地熱や工場廃熱など、有効に活用されていない熱エネルギーが大量に存在します。これらの未利用熱エネルギーを有用な電気エネルギーに直接変換できれば、従来の方法による発電の過程で排出されてきた温室効果ガスの削減が期待できます。その実用化のために、エネルギー変換材料の研究が世界中で進められています。私もこれまでにセラミックスを中心とした無機材料によるエネルギー変換材料の研究開発に携わり、2021年4月の開学と同時に入職した三条市立大学においても、共同研究機関の方々にご協力いただきながら、主に熱エネルギーから電気エネルギーを生み出すことができる環境調和型エネルギー変換セラミックスの研究開発に取り組んでいます。
エネルギー変換材料による熱から電気を生み出す方法は2種類挙げられます。一つは、熱電変換材料のゼーベック効果を利用した「温度差」発電です。ゼーベック効果とは、材料の両端に温度差を与えると、その両端の間に起電力が生じる現象です。この効果は全ての物質で起こりますが、有用な電力を得るためには高い熱起電力に加え、高い電気伝導率、および低い熱伝導率が要求され、そのような特性をもつ物質は限られています。逆に材料に電流を流すと材料の両端に温度差が生じます。これはペルチェ効果と呼ばれる現象で、この現象を利用した製品は実用化されており、例えばコンプレッサーを用いない静音冷蔵庫(ペルチェクーラー)が市販されています。こちらは電力を消費する用途ですので、私の研究目的とは異なるのですが、材料自体は同じものです。熱から電気を得る方法として地熱発電がありますが、現在実用化されている地熱発電はタービンを用いたもので、熱電変換材料によるものではありません。数百℃の地熱や廃熱による発電を熱電変換材料にて実用化するためには、材料の熱電変換特性向上に加え、耐酸化性が求められます。現状で実用的な特性を有する熱電変換材料はビスマス、アンチモン、テルルによる非酸化物系化合物で構成されているため、地熱や廃熱などの利用においては高温の空気中で酸化され材料が劣化してしまうという問題があります。そこで、人体や環境に優しい元素で構成され、かつ高温の空気中でも安定な酸化物系の熱電変換材料が望まれています。我々も高温の未利用熱の有効活用のため、酸化物系セラミックスにおける熱電変換材料の研究を行っています。もう一つは、強誘電体の焦電効果を利用した「温度変化」発電です。焦電効果とは、特有の結晶構造をもつ物質の表面電荷が温度により変化する現象で、この効果を利用すると温度変化により電力を生み出すことができます。一例として、自動車の排気ガスの温度は加減速により変化しますので、この温度変化をうまく利用すれば、廃熱からの発電が可能となります。このような温度変化が起こる場所に焦電材料を貼り付けておけば、発電プロセスの検討も必要ですが、原理的にはこれまで廃熱として排出されていただけの熱を電力供給のエネルギー源として活用することができます。強誘電体はこの焦電効果を有する代表的な物質であり、圧電素子としても応用されているチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)という化合物をベースとした材料が高い焦電特性を有しています。一方、PZT系材料は人体や環境に良くない鉛を構成元素として含んでいますので、非鉛系材料の開発が望まれていますが、PZT系材料に並ぶ特性を有する材料はまだ実用化されていません。そこで我々は、チタン酸バリウムをはじめとした非鉛系強誘電体セラミックスをベースにして、その結晶構造の制御などにより、非鉛系材料による焦電特性の向上を目指しています。
三条市立大学では、2024年度から4年生が各研究室に配属され、学生とともに研究活動が行われています。私も機能材料工学研究室という研究室の教員として、配属された学生たちと一緒に研究を進めています。研究室の学生には、セラミックスを中心とした「ものづくり」を楽しんでもらいたいと思っています。研究室ではものづくりに対する理解を深めてもらうことに重点を置いていますが、それを楽しむ過程で、興味深い特性を持つエネルギー変換材料が生まれることも期待しています。実際に学生たちから学ぶことも多くあり、お互い協力しながらエネルギー変換材料の研究開発を通じて、温室効果ガス排出削減に貢献したいと考えています。

