- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.18
株式会社INPEX 水素・CCUS事業開発本部 技術開発ユニット
若山 樹
1967年、東京都練馬区出身。熊本工業大学工学部応用微生物工学科論文博士審査修了(取得:2000年)。博士(工学)。1994年 大学院修了後、大学、民間、国立研究所において、光合成・CO2固定・水素製造等に係る研究開発に従事。2010年 国際石油開発帝石株式会社(現 株式会社INPEX)入社。石油・ガス以外の事業企画、再生可能エネルギー・カーボンリサイクルに係る事業企画、研究開発に従事し、特に、2013年からはCO2-メタネーションの事業化検討に注力。2025年現在、株式会社INPEX 水素・CCUS事業開発本部 技術開発ユニット プロジェクトジェネラルマネージャーとして、NEDOのCO2-メタネーション事業に従事。

技術力で臨むエネルギーの低炭素化
CO2から都市ガスをつくる!?
二酸化炭素(CO2)は、身近な炭酸飲料やビール、保冷剤のドライアイスとして我々の生活を豊かにしてくれる一方、地球温暖化の原因になっているといわれており、CO2排出量の削減が地球全体の課題となっています。特に、現在の豊かな社会づくりに貢献してきた都市ガスや灯油、ガソリンなどの化石燃料の利用に伴って多くのCO2が排出されることから、CO2排出量の少ないエネルギーへの転換や省エネルギーが強く求められています。
INPEXにおいても、新潟県において石油や天然ガスを生産してお客様にお届けしていますが、2025年2月13日に策定・公開されたINPEX Vision 2035『責任あるエネルギー・トランジションの実現(2025年から2027年までの中期経営計画)』注1)の低炭素化ソリューションの取組みに基づいて、CO2排出量の削減に向けた様々な取組みを進めています注2-4)。
その1つがCO2から都市ガス(e-メタンとは!?で後述します)をつくるCO2-メタネーション技術です。

INPEXにとってのe-メタンとは!?
INPEXの事業は、国内外で石油・天然ガスを探して・開発して・生産することで、エネルギーを安定的かつ効率的に供給することです。INPEXにとってのe-メタンは、4つの意義があると思っています(図2)。

- 天然ガスの生産では、生産された天然ガスにCO2が混ざっており(このCO2を随伴CO2と呼んでいます)、天然ガスをLNGや都市ガスとして輸送・販売するには、随伴CO2を取り除く必要があるため、CO2を分離・回収する設備が各プラントに設置されています。そのため、e-メタンの生産に必要な高い濃度のCO2を、新たなCO2分離・回収設備を設置することなく、利用することが可能です。
- INPEXが有する海外事業は、アブダビ(アラブ首長国連邦)、イクシス(ダーウィン、オーストラリア)といった場所にあるので、国内よりも豊富な太陽光を再生可能エネルギー(再エネ)として利用可能です。そのため、e-メタンの原料である水素を、将来的に国内より安価な再エネから安価な水素を生産(再エネ由来の水素をグリーン水素と呼んでいます)するポテンシャルがあると思っています。
- 将来的に、海外での安価な水素を原料にe-メタンを生産する場合でも、液化天然ガス(Liquified Natural Gas, LNG)として輸送し、INPEXが有する直江津LNG基地で受入れ、1都8県に跨る総延長約1,500 kmのパイプラインによってお客様にお届けすることが可能です(e-メタンとは!?で後述します)。
- 将来的に、天然ガスをe-メタンに置き換えることで、都市ガスインフラの低炭素化が可能となります。
CO2-メタネーションとは!?
CO2-メタネーションは、CO2を分離・回収して利用するCCU(Carbon Capture and Utilization)技術のうち、CO2を様々な資源として循環利用するカーボンリサイクル技術の1つ(図3)注5)で、CO2と水素(H2)から、CO2排出量を増加させずに都市ガスの主成分であるメタン(CH4)を作ることができます(図4)。
CO2-メタネーションによって得られたメタンは、都市ガス事業者で組織されている日本ガス協会が、e-methane(e-メタン)と呼称して普及を図っています注6)。


e-メタンとは!?
e-メタンは、LNGや都市ガスの主成分であるメタンと同じであるため、いわゆる「運ぶ」・「貯める」・「使う」といったバリューチェーンに、今あるLNGや都市ガスのインフラを大きな変更をせずに使える上に、低炭素化できることが、最大のメリットになります。
また、国内では、都市ガス(LNGを含む)のお客様が多いため、将来的に都市ガスをe-メタンに置き換えることが出来れば、原料として必要なCO2も膨大な量となり、大規模なCO2排出量の削減に寄与出来ます。
一方、e-メタンと言ってもメタンはメタンですので、燃焼させればCO2が発生します。しかし、燃焼時に発生するCO2と同量のCO2を原料として用いるため、大気中に新たに化石燃料由来のCO2を排出せず、大気中のCO2の増減はないので、カーボンニュートラルとして位置づけられています注7)。
e-メタンの技術開発・実証について
INPEXは、e-メタンの技術的課題を解決するために、e-メタンに関する2度目のNEDO事業である「NEDO-CO2有効利用技術開発事業(2017年度~2021年度)注8)」において、カナデビア(旧日立造船)と共同で、INPEX JAPAN長岡鉱場・越路原プラント(以下、越路原プラント)内に時間(h)当たり8 立米(Nm3)のCO2を同量のe-メタンに変換できる試験設備(8 Nm3-CH4/h)を建設(図5)して運用し、膜分離後のe-メタン濃度が最大99.6%に達するなど、目標を上回る成果を得ることが出来ました。
なお、このNEDO事業では、INPEXでは初めてとなる水から水素を製造するPEM(Proton Exchange Membrane)型の水電気分解装置(32 Nm3-H2/h)を導入・運用しました。

INPEXでは、得られた成果に基づいて、NEDO「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/気体燃料へのCO2利用技術開発」の、「大規模なCO2-メタネーションシステムを用いた導管注入の実用化技術開発(2021年度~2026年度)(以下、NEDO事業)」を実施しており、世界最大級の400 Nm3-CH4/hの試験設備(以下、試験設備)を建設してe-メタンをINPEX JAPANの導管(パイプライン)に注入することを目標としています。
NEDO事業は、INPEX(INPEX JAPAN等子会社を含む)と、委託先の大阪ガスと名古屋大学の計3者で実施しており、3つの大きな研究開発項目から構成されています(表1)。3者は、お互いに協力しつつ、各年度目標の達成を通した2026年度末の最終目標達成に向けて、様々な研究開発に取り組んでいます注9)。なお、NEDO事業では、INPEXでは初めてとなる液化水素(液水)を利用する設備を導入・運用します。

NEDO事業で建設中の試験設備は、既に大型機器の搬入・据付は終了しており、大型機器を接続する配管や電気・計装などの工事を進めています(図1)。試験設備の建設終了後は、試運転準備や試運転を経てからe-メタンを生産する実証運転を2026年度末まで行います。試験設備で生産されたe-メタンは、越路原プラントを介して、2025年度内からパイプラインに注入され、お客様へ届けられる計画となっています。
また、生産するe-メタンについては、e-メタンの環境価値を証明するクリーンガス証書を取得していく予定です。
INPEXでは、これまで培った組織能力・既存技術を活かし、エネルギーの低炭素化に取組みます注1)。
参考URL
- https://www.inpex.co.jp/assets/documents/company/inpex_vision_2035.pdf
- https://www.inpex.co.jp/news/2024/20240904.html
- https://www.inpex.co.jp/news/2024/20240830.html
- https://www2.niigata-nippo.co.jp/datsutan/topics/10199/
- https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling.html
- https://www.gas.or.jp/gastainable/e-methane/
- https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/gas_jigyo_wg/pdf/20230619_1.pdf
- https://www.nedo.go.jp/content/100932266.pdf
- https://www.nedo.go.jp/introducing/iinkai/ZZBF_100646.html