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  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

県内の理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)

リレーコラムVOL.19

新潟工科大学 工学部 教授(グリーントランスフォーメーション(GX)に寄与する環境負荷低減素材の開発RCS・代表)
藤木 一浩ふじき かずひろ

1962年、新潟県佐渡市出身。新潟大学大学院自然科学研究科修了。学術博士。

91年4月、花王株式会社に入社和歌山研究所に勤務。93年1月、上越教育大学助手。

同助教授を経て、2008年4月から現職。

グリーントランスフォーメーション(GX)への貢献をめざして-環境負荷低減素材の開発-

はじめに

グリーントランスフォーメーション(GX)とは、経済産業省が提唱した言葉で、気候変動問題への対策とエネルギーの安定供給の両立を主目的として、化石燃料をクリーンエネルギーに転換して脱炭素社会を構築しようとする取り組みのことを指します。脱炭素の取り組みとしては、クリーンエネルギーの主力とされる太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用の他にも、省エネルギーの徹底や資源循環の構築、低環境負荷型材料の利用なども含まれます。

これまでの成果

新潟工科大学では、学内外の教員と産業界の研究・技術者を含めた複数のメンバーからなる6つの研究テーマを「リサーチコアステーション(RCS)」として位置づけ、2024年10月に研究がスタートしました。ここでは、私が代表者を務める「グリーントランスフォーメーション(GX)に寄与する環境負荷低減素材の開発RCS」について、その取り組みを紹介します。

プラスチックをはじめとする高分子材料は、各種容器や包装フィルムをはじめ自動車部品など様々な用途に利用されていますが、使用・廃棄後は分解せず長時間環境中に残存するため、その処理方法が大きな課題となってきました。さらに近年では、極小片となったマイクロプラスチックが河川や海洋中に滞留することが明らかになり、非常に大きな環境問題となっています。これらの問題を解決する材料として期待されるのが、ポリ乳酸等の生分解性プラスチックです。生分解性プラスチックは、微生物により最終的には完全に水と二酸化炭素に分解されるため、環境負荷低減材料として注目されています。一方で、従来のプラスチック材料よりも耐熱性が低いといった物性上の欠点があります。この欠点を改善する手段の一つに、ポリ乳酸の材料中にカーボンナノチューブ等の炭素系ナノメートル(10-9 m)サイズの耐熱性無機物を充填して複合化させる方法があります。しかしながら、ナノメートルサイズの物質は凝集力が強く、材料中に均一に分散・充填させることは容易ではなく多大なエネルギーを必要とします。そこで、少ないエネルギーで均一に分散可能な炭素ナノ材料を得る目的で、炭素ナノ材料の表面にポリ乳酸の分子を化学結合する反応について検討しました。充填材の表面に、混ぜ込む相手の材料と同じ構造の分子を結合しておけば、同じ物質同士ですから混ざりやすくなることが考えられます。その結果、カーボンナノチューブの表面にポリ乳酸を化学結合してからポリ乳酸中に混合分散させ複合化した材料は、未処理のカーボンナノチューブと複合化したものよりも均一分散性に優れ、耐熱温度も約25℃向上することが明らかになりました。

この様な成果は、炭素ナノ材料の表面に結合する高分子の種類によって表面の性質が変わることを意味します。すなわち、混合・分散させる材料や媒体の性質に応じて、表面の性質を親水性から親油性まで制御できることになります。その一例として、水と油を入れた中に、カーボンナノチューブを混合・分散させた結果を写真に示します。通常では水と油は混ざり合うことなく分離して下層が水、上層が油の2層になります。そこに親油性表面の性質を持ったカーボンナノチューブを混合・分散させると、上層の油層にのみ分散します(a)。逆に親水性表面の性質を持ったカーボンナノチューブを混合・分散させると、下層の水層にのみ分散します(c)。水にも油にも混ざり合うことが可能な性質、すなわち両親媒性表面の性質を持ったものは、あたかも水と油が均一に混合したようになり、全体が1層となって分散します(b)。これは、両親媒性表面の性質を持ったカーボンナノチューブが界面活性剤と同じ働きをし、水と油が乳化した状態になることを示しています。

カーボンナノチューブ表面の性質の違いによる分散性の比較

今後の取り組み

これまでは、複合化する材料や媒体の構造に応じて充填材として用いるナノ材料表面の性質を決める、いわゆるテーラーメイドな合成反応について検討してきました。今後は、より汎用性を持たせた表面の性質、すなわち上述の両親媒性表面の性質を持ったナノ材料の合成に取り組む予定です。例えば、微生物が産出する界面活性剤(バイオサーファクタント)をナノ材料表面に結合すれば、広範囲な種類のプラスチック材料や溶媒などに省エネルギーで容易に混合・分散する充填材が合成できると考えられます。バイオサーファクタントは天然物なので、資源循環及び環境負荷低減素材としてGXに少なからず貢献できると考えています。

おわりに

今年の1月4日付新潟日報の朝刊に、日本発のペロブスカイト太陽電池の実用化に関する記事が掲載されていました。次世代太陽電池と期待されているもので、薄いフィルム状に成型加工できることが画期的な特徴です。従って、従来の屋根以外に建物の壁面や窓ガラスなどにも設置が可能となり、低コストで一般住宅に普及すれば、これからのGXの主流になるかも知れません。私達のRCSテーマにも技術的な課題が多くありますが、一歩一歩着実に解決して、GX実現の一翼を担いたいと思っています。

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