- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(隔週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.043
新潟工科大学 工学部 工学科 基礎教育・教養系 准教授
吉田 宏二
1967年 岐阜県出身。広島大学理学部卒業、同大学院理学研究科修了。博士(理学)。1997年国際超伝導産業技術研究センター研究員、2001年山口東京理科大学基礎工学部助手、2007年茨城大学大学教育センター講師、准教授、2012年から現職。

1兆円の損失をゼロに! 超伝導が拓く「常温」の送電革命
私たちの暮らしは、電気なしでは成り立ちません。スマートフォンや家電、電気自動車など、生活のあらゆる場面で電気が使われています。その電気は、発電所から送電線を通じて家庭や工場へ届けられますが、その過程で熱として失われる「損失」が生じています。日本全体では、年間の電力供給量のうち約5%が送電ロスとして失われており、これは原子力発電所5基分に相当する約500億kWh、金額にして約1兆円規模のエネルギー損失になります。
この損失をなくす夢の技術が「超伝導」です。超伝導とは、ある温度以下になると電気抵抗がゼロになる現象で、電気がジュール熱を発生させずに流れるという驚くべき性質を持っています。さらに、熱の発生なしに大きな電流を流せるため、強力な磁場を安定して生み出すこともできます。例えば、MRIでは体の内部を精密に撮影するための磁石に、リニアモーターカーでは車体を浮かせるための磁石に、超伝導が使われています。
ただし、現在実用化されている超伝導材料は、極低温での使用が前提であり、特殊な冷却装置が必要です。もっと身近な条件で使える超伝導材料があれば、社会全体のエネルギー効率を大きく高めることができます。
最近、La₃Ni₂O₇(ランタン・ニッケル酸化物)という物質が注目されています。高圧下で超伝導を示すことが報告され、世界中の研究者が関心を寄せています。この物質は、電子が規則的に並ぶ「電荷密度波」という現象を持ち、構造と電子のふるまいが密接に関係しているのが特徴です。私たちの研究では、この物質に希土類元素を加えたり、酸素の量を調整したりすることで、常温・常圧でも電子のふるまいを変えられるかを探っています。つまり、特別な装置を使わずに、化学的な工夫だけで物性を制御する方法です。これがうまくいけば、常圧下で銅酸化物高温超伝導体(これまでの超伝導研究の主役)の限界を超えるような新しい超伝導材料の発見につながる可能性があります。
こうした研究では、物質の合成が欠かせません。私たちは、既存の手法を応用するだけでなく、目的に応じて新しい合成方法の開発にも取り組んでいます。温度や雰囲気を細かく制御しながら、狙った構造や組成を持つ試料をつくることは、まさに「材料のレシピを究める」作業です。実験では、X線を使って結晶構造を調べたり、ヨウ素滴定によってニッケルの価数(酸化状態)を定量的に測定したり、電気抵抗を測定したりします。こうしたデータを組み合わせて、構造・電子状態・物性の関係を地図のように描き出すことで、どんな条件で超伝導が起こるかを予測できるようになります。
この研究は、環境にもやさしい技術につながります。特殊な冷却装置や高圧装置が不要になれば、エネルギー消費を抑えられますし、教育現場でも再現可能な実験として活用できます。構造と物性の関係を「見える化」することで、次世代の研究者の育成にも役立つでしょう。
電気をムダなく使える社会──それは、再生可能エネルギーを活かし、カーボンニュートラルを実現する未来です。超伝導は、その鍵を握る技術のひとつ。私たちは、「常圧で使える、そして銅酸化物を超える超伝導材料」という新しい可能性を拓く挑戦を続けています。