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  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)

リレーコラムVOL.4

新潟工科大学 工学部教授
佐藤 栄一さとう えいいち

1969年、福島県出身。新潟大学大学院自然科学研究科修了。博士(工学)。1996年4月、新潟工科大学工学部助手。同助教授を経て、2013年4月から現職。

雪国の暮らしを豊かにする水車の開発

水力エネルギーは、古くから利用されている再生可能エネルギーのひとつです。水車は、水力エネルギーを機械的エネルギーに変える回転機械であり、発電や精米、製粉などの機械動力を得るために用いられてきました。水力発電と聞くと、大規模なダムを有する施設を思い浮かべる方が多いですが、近年は農業用水路や上下水道など、既存設備の水の流れを利用して発電を行う小水力発電に注目が集まっています。小水力発電は、大規模なダムが不要なため、生態系への影響が少なく、自然環境を保護しながら発電を行うことが可能です。また、地元の企業が水車の製造や発電施設の運営、メンテナンスを担当することで、雇用の創出にも繋がります。しかし、効率的な発電を行うには、まず場所の選定が重要です。日本が有する水資源のうち、技術的・経済的に利用可能な水力エネルギーが豊富に賦存する地域は、年間降雪量が著しく多く、世界有数の豪雪地帯です。降雪量が多い地域の小規模河川や水路では、冬季に雪や氷の塊が頻繁に流下する様子が観察されます。そのため、このような地域で利用される水車は、雪氷塊を羽根車(以下、ロータ)に巻込んで発電量の低下や運転障害が発生するばかりか、ロータが破損する恐れもあります。そこで、水力エネルギーが豊富に賦存する地域では降雪量も多いため、水力エネルギーを通年で最大限活用するために、雪氷の影響を受けずに安定して稼働する水車の開発が不可欠です。小生の研究室では、他の大学(信州大学・名古屋大学・大正大学・秋田大学)や企業(中越工業株式会社・Core Links合同会社)、水車を設置する自治体等と連携して、雪氷塊が頻繁に流れる水路でも安定して高効率で発電する水車の研究開発を行っています。まず平成31年度に下掛け水車を開発対象として選定し、長野県信濃町の水路に設置しました。(図1)冬季に雪氷塊を模した球形の雪玉を作って水車に向けて上流から下流に流し、ロータ通過時の雪玉の動き・形の変化や発電特性などを調べています。(図2)その結果、雪氷塊が流れる水路にも適した下掛け水車に関する、幾つかの設計指針を得ることができました。現在はこれまでの研究成果を踏まえて、水車の発電出力から雪氷塊の巻き込みの予兆をリアルタイムで捉え、巻き込みに関与する羽根を特定し、その姿勢を適切なタイミングで変更して出力低下を抑えるAI搭載型のロータの開発にも着手しています。合せて発電した電力の用途についても検討を行い、雪国のくらしを豊かにする水車の研究開発を今後も続けてまいります。

図1 長野県信濃町に設置した水車
図2 雪氷塊を模した雪玉を水路に流す実験

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