- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.29
新潟工科大学 工学部工学科 食品・環境化学系 発酵微生物工学研究室、准教授
小野寺 正幸
1962年、東京都出身。新潟大学農学部卒業後、大学院自然科学研究科修了。学術博士。1995年4月、新潟工科大学工学部助教授を経て、2007年4月から現職。

資源循環型社会に向けて:焼却処理からメタン発酵へ
日本では年間約4,000万トンを超える一般廃棄物が発生しており、その約半数が生ごみなどの生物系廃棄物です。家庭から排出される生ごみは、見かけ以上に処理負荷が高く、含水率は平均70~80%に達しています。現在、多くの自治体ではこうした生物系廃棄物を焼却によって処理していますが、含水率の高い廃棄物の焼却処理にはさまざまな課題があります。まず、燃焼時に水分を蒸発させるために多量の熱エネルギーが必要となり、その分だけ廃棄物自体の発熱量が低下します。これにより十分な燃焼が難しくなり、助燃剤(重油やガス)の追加投入が求められるケースが少なくありません。結果として、運転コストの増加とともに、石油や天然ガスの使用によるCO₂排出量の増大も引き起こされます。さらに、不完全燃焼のリスクも高まります。炉内温度が低下すると、ダイオキシンなどの有害物質が発生しやすくなり、排ガスの質や安全性に悪影響を及ぼします。また、水蒸気が大量に発生することで排ガスの体積が増大し、排ガス処理設備への負荷も増加します。このような状況が続くと、焼却炉の耐火材が損傷したり、機器の寿命が短くなったりするなどの設備トラブルも招く可能性があります。焼却後に残る灰の量が増加することも問題です。特に不完全燃焼によって未燃物が残ると、焼却灰の性状が悪化し、最終処分場への埋立処理にかかる費用や環境負荷が増すことになります。加えて、日本の最終処分場の逼迫状況を考えれば、焼却灰の増加は持続可能な廃棄物処理の大きな障害となり得ます。
こうした背景のもと、焼却処理に依存しない持続可能な廃棄物処理の手法が求められています。そこで注目されるのが、メタン発酵によるバイオガス化です。メタン発酵は、生物系廃棄物を嫌気的な環境下で微生物により分解し、主にメタンと二酸化炭素から成るバイオガスを生成するプロセスです。このバイオガスは発電や熱利用、都市ガスへの供給など、再生可能エネルギーとして多様な活用が可能です。発酵の残渣も有機肥料として農業に利用できるため、資源の循環的利用を実現できます。メタン発酵のプロセスは「加水分解 → 酸生成 → 酢酸生成 → メタン生成」の4段階で構成されており、それぞれ異なる種類の微生物が関与します。この複雑なプロセスを適切に制御することで、高効率なエネルギー回収が可能になります。特に生ごみのような高含水率の有機物は、このプロセスに適しており、焼却処理と比べてエネルギー効率の面で優れているとされています。海外では、ドイツやスウェーデンなど多くの国でメタン発酵によるバイオガス化が既に普及しており、電力供給の一部を担うインフラとして活用されています。日本においても、地域の中で発生した生ごみを用いてバイオガスを生成し、地産地消型のエネルギーシステムを構築する事例が少しずつ増えつつあります。また、メタン発酵は単なる廃棄物処理技術にとどまらず、メタン発酵施設が地域に根ざした形で導入されれば、廃棄物の発生抑制からエネルギー利用、農業への資源循環まで、一貫した循環型社会の構築が可能になります。福岡県大木町や県内の長岡市の取り組みが知られています。
本学においては、私の研究室と再生可能エネルギー研究部の学生が協力し、地域資源を活用したバイオガス発電の実践的研究に取り組んでいます。具体的には、学生食堂からの残飯や、市内カフェから提供される調理くず・コーヒー粕、さらには廃棄飲料などの生物系廃棄物を原料とし、200L容量の中温メタン発酵装置および100L容量の高温メタン発酵装置を用いてメタン発酵を行っています。発生したバイオガスは、バイオディーゼル発電機に導入され、バイオディーゼル燃料と混焼して発電を行っており、その電力は研究室や学生実験室にて有効活用されています。また、発電時に生じる廃熱の一部は、中温メタン発酵装置の加温にも利用され、エネルギーの有効循環を図っています。さらに、メタン発酵後に得られる処理液は、近隣の米農家の水田に液体肥料として提供し、環境に配慮した農業支援にも貢献しています。処理液は、ご希望の方へ無償で配布も行っておりますので、興味をお持ちの方はぜひお気軽にご連絡ください。

今、私たちは「捨てる」から「活かす」へと発想を転換する時期に来ています。生ごみを燃やして終わるのではなく、資源として最大限に活かし、地域のエネルギー・農業・環境を支える社会モデルへと変えていく──。メタン発酵の社会実装は、そのような未来への一歩となるものと確信しています。