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だつたんそうしよう!

  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者たちが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

新潟大や長岡技術科学大など理工系6大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(第1、3木曜日夕に配信)

リレーコラムVOL.6

長岡工業高等専門学校 教授
荒木 秀明あらき ひであき

1973年、長岡市出身。新潟大学大学院自然科学研究科エネルギー基礎科学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。2001年7月、長岡工業高等専門学校助手。07年3月~同8月、独ハーン・マイトナー研究所にて在外研究。08年、長岡工業高等専門学校准教授。11年10月~15年3月、科学技術振興機構さきがけ研究者を兼任。17年4月より現職。

身近な材料のみで太陽電池が作れるってコト?!

長岡高専の荒木です。高等専門学校(高専)は、大学と同じ高等教育機関で、全国に国立高専は51校あります。中学校を卒業した15歳から20歳までの若い学生たちが5年間(専攻科を含めると大学学部相当までの7年間)、社会が必要とする工学や技術分野を学びます。大学と同様に研究室が設置され、日々様々な研究が行われています。

私たち、材料物性研究室では、省資源で,希少元素や毒性元素を含まず、地殻中に豊富なたった三つの元素のみから作ることができるレアメタルフリーの新しい材料を用いた太陽電池の開発を行っています。このコラムでは、私たちの研究する太陽電池と、世界の仲間たちとの活動について紹介します。

低炭素社会の実現や頻発する自然災害時の電源確保において、太陽電池は、その普及が期待されています。私たちの研究室では、次世代のレアメタルフリー太陽電池材料として、身近な元素である十円玉に含まれる銅(Cu)と錫(Sn)と湯の華に含まれる硫黄(S)からなる硫化物Cu2SnS3に着目しました。この化合物は、希少元素や毒性元素(たとえばカドミウムやインジウムなど)を含まず、地殻中に豊富に存在する元素のみから構成されており、太陽電池として使用する際に環境への影響が少ない点が魅力です。

もともと私たちの研究室では、銅Cu、錫Sn、亜鉛Zn、硫黄Sの4つの元素から構成される硫化物Cu2ZnSnS4を用いた太陽電池を研究していました。しかし、まれに亜鉛が著しく不足した組成でも特性は悪いものの、いくらかは発電する試料があることに気が付き、試しに銅、錫、硫黄のみで作ってみたところ、一定以上の発電特性をもつ太陽電池ができることがわかりました。

一つの太陽電池を作り上げるのは実は大変な作業です。ガラス板の上にプラス極用の金属薄膜(モリブデン)、太陽電池の心臓部である光吸収層であるp型半導体薄膜(Cu2SnS3)、別のn型半導体膜、透明な導電薄膜、マイナス極用の金属薄膜(アルミニウム)と、最低でも5層の数百ナノメートル以下の薄膜を失敗なく積み重ねて、やっと一つの太陽電池が完成します。発電しないか、たとえ発電してもわずかな起電力にとどまると思われる試料は、普通、太陽電池まで仕上げて評価することはしません。しかし、思い込みが少ないフレッシュなセンスを持った学生が粘り強くたくさんの実験を行った結果,この結果にたどり着きました。研究をしていると大なり小なりこういった幸運に巡り会うものです。思い込みで幸運を捕まえ損ねないようにしたいものです。現在では、本校の卒業生が進学先でCu2SnS3太陽電池の研究を進展させ、世界最高の発電特性を報告しています。

このCu2SnS3を用いた太陽電池の研究はまだ発展途上ですが、技術的課題を克服し、効率がさらに向上すれば、シリコンに代わる持続可能なエネルギー源として、より広く普及していく可能性を秘めています。脱炭素社会に向けた技術革新は一朝一夕には実現しませんが、学生たちの情熱と努力によって、持続可能な未来への第一歩が確実に踏み出されています。

ところで、私はこの原稿を日本に向かう飛行機で書いています。この夏、15名の学生とともにバンコクの泰日工業大学(泰日工大、タイ)へ行く機会がありました。泰日工大とナンヤン・ポリテクニック (NYP、シンガポール)の学生たちと本校の学生が一緒に、「スマートサステイナブルファーム」というテーマでグループワークを行いました。スマートファームの実現に必要な要素技術(センサ、アクチュエータ、プログラム、IoT)についてのワークショップや、持続可能なスマートファームを実現しているマッシュルーム農場でのフィールドワークを通じて、3校の学生が混成した各グループが、タイで実現可能な「スマートファーム」に関するアイデアを考案し、そのアイデアのプレゼンテーションを行いました。地球温暖化対策というグローバルな課題について、世界の仲間たちと共に解決策を模索する中で、タイ、シンガポール、日本の学生たちは絆を深めていきました。このように国境を超えた協力と知識の共有が、私たちが直面する複雑な問題に対して効果的な解決策を生み出し、未来の持続可能な農業の発展に貢献するのではないかと期待しています。これからの世界は、異なる背景を持つ人々が共に手を取り合い、持続可能な未来を築いていくことでより一層強固なものとなるに違いありません。学生たちの協力が未来の可能性を広げると信じています。みなさんも世界中に友達を作りながら脱炭素しませんか?

現在、手掛けている太陽電池のミニモジュール(左)とセル(右)。セルには約4×4mm角の太陽電池セルが8個並んでいる。写真のミニモジュールは2.5×5cmのガラス基板上に短冊状のセルを11個並べて作り込み、動作するようにしたもの。

銅と錫、硫黄のみから作られるCu2SnS3(CTS)薄膜を光吸収層に使った太陽電池(右)は、ガラス板の上に電極や太陽光を取り入れるための透明な導電膜層、2種類の半導体層と、異なる材料を5層積み重ねて作られます。

タイ マッシュルーム農場の見学
泰日工大、NYP、長岡高専合同チームによる
最終プレゼンテーションの様子

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