トピックス

だつたんそうしよう!

  • リレーコラム

脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。

県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)

リレーコラムVOL.10

長岡技術科学大学 技学研究院 機械系 教授
上村 靖司かみむら せいじ

1966年、新潟県長岡市(旧川口町)出身。長岡技術科学大学大学院工学研究科創造設計工学専攻修了。博士(工学)。1990年に同大学助手着任。その後、米国レンセラー工科大学客員研究員、小山工業高等専門学校助教授、長岡技術科学大学講師、助教授を経て、2014年5月から現職。

天然雪を活かした食品産業のひろがり、そして猛暑対策へ

天然の雪や氷の冷たさは、国の定める再生可能エネルギーの一つとして指定されている。ただし太陽光や風力のように「電気」を生み出すのではなく、あくまで「熱」としての利用である。冬に降り積もった雪や氷を上手く夏まで保存して、春夏秋に冷房や冷蔵に使えれば、エアコンや冷蔵庫・冷凍庫で消費するはずの電気を減らせる、という節電効果としてのエネルギーなのである。

実際に雪室(断熱した部屋に貯蔵)や雪山(露天で山積みにして保存)は全国に200施設ほどあるとされていて、1980年代終わり頃から毎年着実に増えている。新潟県内には、酒蔵(日本酒、ワイン)、米倉庫などが約50施設ほどあり、最近では魚沼市・南魚沼市エリアに雪室を併設した食品産業の集積が進んでいる。

雪をたくさん貯めて大量に使えば使うほど脱炭素に貢献できるか、というとそれほど単純ではない。雪を集める、保存する、冷熱を取り出す作業に、雪の持つエネルギー以上に化石燃料を消費してしまうからだ。脱炭素につながるようにうまく雪を利用するためのポイントは

  1. 除排雪と組み合わせる
  2. その場で使う
  3. 価値ある何かと組み合わせる

3つ。

毎年の除雪は必須。だから除雪を「集雪」と捉え直す。雪1トンの輸送費は近場でも2千円かかるが、冷熱の価値は1千円ほど。雪は動かせば損をする。だからなるべく輸送せずにその場で使う。雪の冷熱がいくら有効といっても、雪そのものの価値はしれている。だから、日本酒を貯蔵して雪中貯蔵酒にする、米を保管して一年中新米の品質を保つ、カカオ豆を貯蔵して苦みやえぐみを取り除く、根菜を保存して甘くする、精肉を高品質で熟成させる、など、価値ある何かにさらなる付加価値を与えることで採算がとれるのだ。

添付図1:魚沼・南魚沼エリアへの雪室食品産業の集積

昨今、夏の猛暑対策の話題が多い。「屋外での運動や作業の際の熱中症対策のために雪冷房をデリバリーしてもらえないか」、「首都圏で真夏に雪のイベントを開催したい」、「夏に舗装すると温度が下がらず道路を開通できないから、雪をまいて冷やせないか」、など暑すぎる夏の対策への要望が増えている。必ずしも脱炭素にはつながらないが、「冷やす」という需要は温暖化の進展に伴ってますます増えていきそうだ。

私達の研究室では、雪を詰めた袋を搭載して電源の無いところでも簡単に使える移動式のクーラー「雪風君」を開発し、すでに各所で活用頂いている。もっと広く普及させるため、各地に雪を貯蔵して供給する常設の雪山を増やしていきたい。世界一の豪雪地だからこそ、猛暑対策も新潟ならではの雪利用で展開していきたいし、雪国の冷熱供給のインフラとして、当たり前に雪を使う社会を実現していきたいと考えている。

添付図2:可搬型雪冷房装置「雪風君BIG」

関連記事

次世代エネルギーへの挑戦:核融合発電の可能性と課題
リレーコラム
ある原子核が別の原子核に変化することを原子核変換や原子核反応と呼びますが、複数の原子核が融合して別の原子核に変わる反応を「核融合」と言います
長岡技術科学大学
新潟の化学工場で進めている脱炭素に向けた取り組み
リレーコラム
2月6日発行の当リレーコラムにおいて、当社、三菱ガス化学の新潟工場(新潟市北区)は、脱炭素のフラッグシップ工場として2021年から様々な脱炭
三菱ガス化学
地域資源を活用した新事業の創出にチャレンジ!
リレーコラム
三条市立大学の和田です。大学に赴任する前は、AGC株式会社にて、主に自動車および建材向けの新規高分子材料(特にポリウレタン樹脂)の原料合成、
三条市立大学
CCSへの期待
リレーコラム
当社は地域の皆さまのご理解を賜りながら1955年から長きにわたり石油・天然ガスの開発・生産を営んでいます。新潟県内では、新潟鉱場(新潟市東区
石油資源開発
超伝導技術による電力・エネルギー機器のイノベーション
リレーコラム
カーボンニュートラルの達成や安心・安全・レジリエントな社会システムの実現に向け、近未来の電気エネルギー機器・システムには、高効率・高信頼・環
新潟大学
高専生の若さとアイディアに期待!
リレーコラム
長岡工業高等専門学校(長岡高専)の島宗です。電気電子システム工学科で電子回路や電気電子材料などの授業を受け持ち、研究室では太陽電池に関する研
長岡工業高等専門学校