- リレーコラム
脱炭素社会の実現へ新たな技術を生み出す新潟県内の研究者らが、自身の研究や脱炭素への思いなどを自由につづります。
県内の理工系5大学・短大・高専と、本県と関わりのある企業のリレーコラムです。(毎週木曜日夕に配信=第5週がある場合は休み)
リレーコラムVOL.31
長岡工業高等専門学校 機械工学科 助教
早川 佳孝
1994年、熊本県人吉市出身。2017年 熊本高等専門学校 生産システム工学専攻修了。2022年 長岡技術科学大学大学院5年一貫制博士課程 技術科学イノベーション専攻修了。2022年3月より現職。

長岡の街を太陽光で見る──3D都市モデルで描くエネルギーの未来
「屋根に太陽光パネルを載せれば電気代が下がる」──そんな話を一度は聞いたことがあるかもしれません。でも、実際に「自分の家の屋根でどれくらい発電できるの?」と聞かれて、すぐに答えられる人は多くないのではないでしょうか。
私たちは今、「街そのものをコンピュータの中に再現する」技術を使って、こうした疑問に答えようとしています。「PLATEAU(プラトー)」という日本全国の都市をデジタル化するプロジェクトが国土交通省主導で行われています。新潟県では、新潟市、長岡市、上越市の3D都市モデルが公開されており、建物の形や高さ、方角まで、驚くほど正確にデジタル化されています。
このデジタル都市の中で、太陽の動きや気象データを使って、どの建物に、いつ、どれだけ光が当たるのか、そして、その光でどのくらいの電気・熱を生み出せるのかという「太陽エネルギー利用のシミュレーション」を行っています。

この取り組みでは、ゲームを作るのに使われるゲームエンジンを活用しています。ゲームエンジンを応用して、太陽の動きや建物の陰を再現する「エネルギーのデジタルツイン」として活用しています。
こうした技術を使えば、「この地域の住宅群では、年間でこれだけの電力がつくれる」「南向きの屋根を優先的に活用すれば、発電効率が上がる」といったことが事前にわかります。つまり、「太陽光パネルをどこに、どれくらい設置すべきか」という都市全体の最適な設計が、科学的にできるようになるのです。
実際の発電は自然の力にゆだねられるものですが、私たちはその「ゆらぎ」さえも可視化し、地域に合った太陽光の活かし方を探っています。将来的には、こうした技術を地域住民の皆さんとも共有し、「見える化」された太陽の恵みを一緒に感じられるような場も作っていきたいと考えています。
長岡の雪と寒さに耐える家々も、春から秋にかけては十分に太陽の光を浴びています。そのエネルギーをどう活かすかを、最新のデジタル技術とともに考える──それが、私たちの目指す「地域に根ざした脱炭素」の第一歩です。